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※「千葉県宅地建物取引業協会 研修会テキスト」 から抜粋したものです。
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建物賃貸契約に関する最近の気になる判例 |
建物賃貸契約に関する最近の気になる判例
●ゴミに関する居住ルール違反
共同住宅の居室の賃借人が、その居室内に社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置したことが信頼関係破壊に当たるとして賃貸借契約の解除事由になるとされた事例
(東京地裁平成10年6月26日判例タイムズ1010号272頁 判決)
- 事案の概要
借主は、貸主が所有する建物の居室を賃借していたが、火災報知機の点検の際に居室内に立ち入ったところ相当な量のゴミが積みあがっていたことを確認したことから、借主と貸主は、本件居室内に在置してあるゴミの撤去をすること等他人に迷惑をかけないことを契約更新の際の条件とし、万一借主が遵守しない場合には、当然に契約は解除されるとし、1週間以内に自己の負担で立ち退く合意がなされた。
しかしそれ以降も、借主はゴミの放置を改善せず、貸主およびその家族の再三の注意にも関わらず、2年以上にわたり、本件居室内に極めて多量のゴミをかなりの高さにまで積み上げたままにしていることから、貸主が賃貸借契約を解除し、借主に明渡しを求めた事案である。
- 裁判所の判断
借主が、本件貸室内において危険、不潔、その他近隣の迷惑となるべき行為をしたということができ、賃貸借契約に違反したことが認められる。
信頼関係を基礎とする継続的な賃貸借契約の性質上、貸室内におけるゴミの放置状態が多少不潔であるからといって、直ちに賃貸借契約を解除することはできないが、「家主側が消防署から居室内のゴミに火災発生の危険があると注意を受けたこと、本件では貸主からの再三の注意を受けていたことにもかかわらず、事態を改善することなく2年以上の長期にわたって、社会常識の範囲をはるかに超える著しく多量のゴミを放置するといった非常識な行為は、衛生面で問題があるだけでなく、火災が生じるなどの危険性もあることから、貸主やその家族および近隣の住民に与える迷惑は多大なものであるといえるのであって、このことは、賃貸借契約の解除事由を優に構成するといわざるを得ない。」として、賃貸借契約の解除は有効であると判断した。
- 最近の判例では、
(1)賃貸借契約の解除を肯定した事例として、
- 長期無断不在、賃料増額の協議の拒否その他の不信義な行為を総合して、アパートの賃貸借契約の信頼関係を破壊する義務違反を認めた東京地判平6・3・16判例タイムズ877号218頁、
- 共同住宅の一室の賃貸借契約において、犬猫等の動物の飼育を禁止する特約違反を理由とする契約解除が認められた東京地判平7・7・12判時1577号97頁などが、
(2)賃貸契約の解除を否定した事由として、
- 賃貸建物につき失火させたこと等が賃借人の過失による債務不履行に当たるが、賃貸借契約の基礎となる信頼関係を損なうには至っていないとして建物明渡請求が棄却された大阪地判平8・1・29判時1582号108頁、
- 土地の賃料の履行遅滞が4ヶ月分にとどまり、賃貸借契約における信頼関係を破壊するに足りない特段の事情があるとして解除が認められなかった東京高判平8・11・26判時1592号71頁などがある。
●近隣迷惑行為
建物賃貸借契約において、賃借人が共同生活上の秩序を乱し、近隣への迷惑行為を繰り返し、隣室が空室状態になったことは、賃貸借契約上の信頼破壊と評価することができ、そのことを理由とする無催告解除は有効であるとした事例(東京地裁平成10年5月12日判例時報1664号75頁)
- 事案の概要
借主は、貸主から共同住宅の一室(506号室)を賃借し、同居人1人と同居していた。借主および同居人は、入居当初から両隣の住人に対して執拗にうるさいなどと抗議を重ね、隣室との間の壁を叩くなどの迷惑行為をしたため、両隣(505、507号室)の借主は転居せざるを得なかった。また新しく転居してきた隣人までもが、借主らの抗議や壁をたたく行為を理由に転居してしまい、両隣とも空室状態となっている。
賃貸借契約の特約には、@賃借人は騒音をたてたり風紀を乱すなどの近隣の迷惑となる一切の行為をしてはならない、A賃借人がこれに違反した場合またはその同居人が共同生活の風紀を乱すと認められたときは、貸主は何らの催告無く契約を解除することができるとの旨の特約がついている。
貸主は、借主らの行為が当該条項に該当するとして賃貸借契約を解除し、借主らに対し明渡しを求めた事案である。
- 裁判所の判断
借主らは、隣室から発生する騒音は社会生活上の受忍限度を超えるものではなかったのであるから、共同住宅における日常生活上、通常発生する騒音として受容するべきであったのにもかかわらず、これら隣室住人などに対し、何回も、執拗に、音がうるさいなどと文句を言い、壁を叩いたり大声で怒鳴ったりするなどの嫌がらせ行為を続けた。結局このことが原因で、隣室住人は退去を余儀なくさせるのに至ったものであるとして、借主らのこれらの行為は、本件賃貸借契約上禁止事項とされている近隣の迷惑となる行為に該当し、また、解除事由とされている共同生活上の秩序を乱す行為に該当するものと認めることができるとした。
そして、借主らのこれらの行為によって両隣の部屋が長期間にわたって空室状態となり、貸主らが多額の損害を蒙っていることは、本件賃貸借契約における信頼関係を破壊する行為にあたるというべきである。として、賃貸借契約の解除を認めた。
*ちなみに、このような特約による無催告解除が認められるには、借地借家法30条の関係で、まずその特約の有効性を問題とし、その上で解除の有効性を問題とすることが多いが、本件では特約の有効性は争点になっていなかった。
- 賃貸借契約固有の義務違反ではなく特約で課せられた義務違反を理由とする無催告解除を認めたものとして、ショッピングセンターの店舗の賃貸借契約においてショッピングセンターの正常な運営を阻害するような粗暴な言動・抗争・秩序紊乱等を禁ずる特約違反を理由とした事例(最判昭和50年2月20日判例時報770号42頁)、や住宅の一室の賃貸借契約において犬猫等の動物の飼育を禁止する特約違反を理由とした事例(東京地判平成7年7月12日判例時報1577号97頁)がある。
●用法遵守義務違反
居住専用部分と店舗専用部分からなる複合住宅(複合用途のマンション)において、管理規約に違反して、住居専用部分を会社の事務所として使用することは、建物の区分所有等に関する法律6条1項にいう建物の管理又は使用に関し区分所有者の共同の収益に反する行為に当たるとし、かかる状況は区分所有者の共同生活の維持を困難にするとして、賃貸借契約の解除及び借主に対する明け渡し請求が認められた事例(東京地判八王子支部平成5年7月9日判例時報1480号86頁、判例タイムズ848号201頁)
- 事案の概要
借主は、区分所有者である貸主と賃貸借契約を締結し、住居と店舗の複合住戸である区分所有建物の住戸部分の1室を事務所として賃借し占有使用している会社であるが、本件建物使用細則には、「他の居住者に影響を及ぼす恐れのある電気、ガス・給排水・電信、その他の諸設備、器具等を新設・増設・変更してはならない。」と定め、また、「居住者は次の行為をするときは事前に管理組合に届出て、その承諾を得なければならない。」と定め、その一号には、「電気・ガス・給排水設備の新設・増設・変更をするとき」と、その三号には「他の住居者に迷惑を及ぼす恐れのある営繕工事を行うとき。」とそれぞれ定めているにもかかわらず、無断で電話回線を増設するなどの行為をした。
管理組合が、貸主と借主に対し、区分所有法の規定に従い、賃貸借契約の解除と借主に明渡しを求めた事案である。
- 裁判所の判断
住居部分と店舗部分からなる複合住宅において、本件管理規約および使用細則の定める専用部分の区画に従って利用することは、居住者の良好な環境を維持するうえで基本的で重要な事柄であり、区分所有者である居住者の共同生活上の利益を維持・管理するために不可欠な要件であると認められる。
また、1階を店舗専用部分、他の階を住居専用部分と明確に区分している複合用途であるが、明確な区画の維持によって良好な居住環境が予定されており、その2階部分を借主が事務所使用をすることにより、周囲の住居環境が変化をもたらすことは否定できないうえ、管理規約違反を放置することにより、住居専用部分と店舗専用部分の区画が曖昧になり、やがて居住環境に著しい変化をもたらす可能性が高いばかりでなく、管理規約の通用性・実効性・管理規約に対する信頼を損ない、広く他の規約違反を誘発させる可能性さえある。
よって、区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってその障害を除去して区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であることから、賃貸借契約の解除が認められ、かつ借主の退去明渡しが命じられた。
- 区分建物法60条を適用し、専有部分の賃貸借契約が認められた事例としては、最判昭和62年7月17日判例タイムス644号97頁、福岡地判昭和62年7月14日判例タイムス646号141頁があり、いずれも暴力団員が専有部分を使用していたものである(なお、使用禁止事項として、福岡地判昭和62年5月19日判例タイムス651号221頁、競売事例として、名古屋地判昭和62年7月27日判例タイムス647号166頁がある)。
【建物区分所有法】
第60条(占有者に対する引渡し請求)
第五十七条第四項に規定する場合において、第六条第三項において準用する同条第一項に規定する行為による区分所有者の共同生活上の障害が著しく、他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利用の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるときは、区分所有者の全員又は管理組合法人は、集会の決議に基づき、訴えをもって、当該行為に係る占有者が占有する専用部分の使用又は収益を目的とする契約の解除及びその専有部分の引渡しを請求することができる。 |
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