|
ホーム >> 【個人のお客様への調査内容】 紛争事例
※「千葉県宅地建物取引業協会 研修会テキスト」 から抜粋したものです。
|
|
瑕疵担保責任に関する最近の注目すべき判例 その1 |
瑕疵担保責任に関する最近の注目すべき判例
○売買の目的たる土地上にかつて存在していた建物内で女性が胸を刺されて殺害された事件があり、そのことが近くの住民の記憶に残っている等の事情があるときは、同土地には「隠れた瑕疵」があるとし、買主は売主に対し、売買代金額の5パーセントに相当する損害賠償を請求することができるとされた事例
(大阪高裁平18.12.19判時1971号130頁)
【事案】
Xは、平成16年11月29日、Yから、その所有に係る本件土地を、代金1503万1500円で買い受けた。
ところが、その後、本件土地上にかつて存在していた本件建物内で殺人事件があったことが判明したため、Xは、売買の目的物である本件土地に隠れた瑕疵があったとし、Yに対して、民法570条に基づき、751万5750円の損害賠償を請求した。
これに対し、Yは、殺人事件は売買の約8年半以上も前であること、殺人事件は近所で現認者があったわけでもなく近隣の心理的影響も高いとはいえないこと、Yとの売買は隣地と一体の更地売買であることなどからすると、本件建物の殺人事件は本件土地の隠れた瑕疵に当たらないなどと主張した。
一審は、本件土地について隠れた瑕疵があったとして、Yに対し、75万1575円の支払を求める限度で、本訴請求を認容したため、XとYの双方が、一審判決を不服として控訴した。
本判決は、売買の目的物に民法570条の瑕疵があるというのは、その目的物が通常保有する性質を欠いていることをいい、目的物に物理的欠陥がある場合だけではなく、目的物にまつわる嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的欠陥がある場合も含まれるものと解するのが相当であるとした上、本件土地上にかつて存在した建物内で8年以上前に女性が殺害されるという殺人事件が発生したというのであり、通常一般人の嫌悪の度合いも相当大きいと考えられること、殺人事件があったことは新聞で報道されており、現に、本件土地を購入しようとした者が、気持ち悪がってその購入を見送ったことがあること、本件土地上に建物を建てても住み心地が良くなく居住の用に適さないと感じられることなどからすると、本件土地には民法570条にいう「隠れた瑕疵」があると認められるとして、Yの損害賠償責任を肯認したが、その損害額は、売買代金の5%に相当する75万1575円と認めるのが相当であると判断し、これと同旨の一審判決を支持して、XとYの双方の本件控訴を棄却した。
民法570条にいう「隠れた瑕疵」とは、取引上要求される一般的な注意では発見できない欠陥をいうが、何が欠陥かは、当該目的物が通常備えるべき品質・性能が基準になるほか、契約の趣旨ないし当事者の合意によって判断すべきであるとされている(内田貴・民法V132)。
売買された建物内で自殺ないし殺人事件があった場合、建物には物理的欠陥がないとはいえ、一般的には忌み、嫌悪するべきものとして買い控えされることになるから「隠れた瑕疵」にあたるとみてよいであろう。建物内の自殺あるいは殺人事件が売買目的物件の価格にどの程度影響を与えるかについては、主として不動産競売において問題とされ、通常は、30%程度の市場性減価が発生するとし、民事執行法75条1項にいう「損傷」に当たると解されているが(仙台地決昭61・8・1判時1207・107、福岡地決平2・10・2判夕737・239、新潟地決平4・3・10判時1419号90など)、目的物から300メートル離れた山林内の自殺については、損傷に当たらないとされている(仙台高決平8・3・5判時1575・57)。また、競売により買受けた商業ビルの一室において、2年以上前に放火殺人事件が発生したとしても、同ビルの交換価値が著しく損傷されたとは認められないとし、売却許可決定の取消しが認められなかった事例がある(なお原審の東京地方裁判所は、本件建物の8階部分で本件放火事件が発生したという事実により、本件不動産の交換価値の減退が認められるとしても、1割以上の減価修正を要するものとは考えられないから、本件不動産の交換価値が著しく損なわれているとは認められず、したがって、本件において民事執行法75条1項を類推適用することはできないと判断した。本件では、売買の目的となった本件土地上にかつて存在していた建物内で殺人事件があったという事案であり、しかもそれが約8年半前であったというのであるから、かなり微妙な限界事例であって、売買価格の5パーセント減額は常識的な線であろうとされている。
(大阪高裁平18・12・19判時1971号130頁解説参照)
【本判決の判示重要箇所】
これを本件についてみると、一審原告は、一審被告から、本件土地を等面積に分け各部分に一棟ずつ合計二棟の建売住宅を建設して販売する目的でこれを買い受けたものであるが、本件土地のうちのほぼ3分の1強の面積に匹敵する本件一土地上にかつて存在していた本件建物内で、本件売買の約8年以上前に女性が胸を刺されて殺害されるという本件殺人事件があったというのであり、本件売買当時本件建物は取り壊されていて、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない一空間内におけるものに変容していたとはいえるものの、上記事件は、女性が胸を刺されて殺害されるというもので、病死、事故死、自殺に比べても残虐性が大きく、通常一般人の嫌悪の度合いも相当大きいと考えられること、本件殺人事件があったことは新聞にも報道されており、本件売買から約8年以上前に発生したものとはいえ、その事件の性質からしても、本件土地付近に多数存在する住宅等の住民の記憶に少なからず残っているものと推測されるし、現に、本件売買後、本件土地を等面積で分けた東側の土地部分(本件殺人事件が起きた本件一土地側の土地部分)の購入を一旦決めた者が、本件土地の近所の人から、本件一土地上の本件建物内で以前殺人事件があったことを聞き及び、気持ち悪がって、その購入を見送っていることなどの事情に照らせば、本件土地上に新たに建物を建築しようとする者や本件土地上に新たに建築された建物を購入しようとする者が、同建物に居住した場合、殺人があったところに住んでいるとの話題や指摘が人々によってなされ、居住者の耳に届くような状態がつきまとうことも予想されうるのであって、以上によれば、本件売買の目的物である本件土地には、これらの者が上記建物を、住み心地が良くなく、居住の用に適さないと感じることに合理性があると認められる程度の、嫌悪すべき心理的欠陥がなお存在するものというべきである。
そうすると、本件売買の目的物である本件土地には570条にいう「隠れた瑕疵」があると認められるから、一審原告は一審被告に対し、これに基づく損害賠償を請求しうるものというべきである。
なお、本件売買は、地続きで隣接し、いずれも更地であった本件一土地と本件二土地の一括した売買であり、本件土地の面積も比較的狭いものであるから、本件売買の目的物である本件土地は一体として瑕疵を帯びるものであるというべきである。
【類似事案で正反対の判決】
殺人と自殺の違いがありますが、類似の事例で、自殺があった建物を取り壊した後の土地の売買にあっては同建物内の自殺は土地の瑕疵に当たらないとして大阪地判平成11年2月18日、判夕1003号218頁がある。その判示要旨は次のようなものであり、本件判示重要箇所の破線部分と比較すると興味深い相違がある。
「確かに継続的に生活する場所である建物内において、首吊り自殺があったという事実は民法570条が規定する物の瑕疵に該当する余地があると考えられるが、本件においては、本件土地について、かつてその上に存していた本件建物内で平成8年に首吊り自殺があったということであり、嫌悪すべき心理的欠陥の対象は具体的な建物の中の一部の空間という特定を離れて、もはや特定できない一空間内におけるものに変容していることや、土地にまつわる歴史的背景に原因する心理的な欠陥は少なくないことが想定されるのであるから、その嫌悪の度合いは特に縁起をかついだり、因縁を気にするなど特定の者はともかく、通常一般人が本件土地上に新たに建築された建物を居住の用に適さないと感じることが合理的であると判断される程度には至っておらず、このことからして、原告が本件土地の買主となった場合においてもおよそ転売が不能であると判断することについて合理性があるとはいえない。したがって、本件建物内において、平成8年に首吊り自殺があったという事実は、本件売買契約において、隠れた瑕疵には該当しないとするのが相当である。」
(大阪地判平成11年2月18日、判夕1003号218頁)
【関連問題】
- 売主の告知義務
売主の告知義務を認めて説明義務違反があるとして違約金の支払いを認めたものとして、横浜地裁平成元年9月7日、判例タイムズ729号174頁、判例時報1352号126頁があります。
- 媒介業者は売主に心理的嫌悪事件の有無を聞かなければならないか
常に自殺の事実を調査する必要まではないと言われています。売主側のプライバシーとも絡んで宅地建物取引業者が本人に問いただすことはむずかしいからです。但し、地元で相当知られ、比較的年月の経過していない場合は宅地建物取引業者の調査義務の範囲と見るべきとされています(詳細宅地建物取引業法183頁参照)。
筆者としては、告知書の活用をお奨めします。それは2つの理由があります。
一つ目は、宅建業者が質問したい項目の最低限について、事故物件であるか否かについても質問したことになり一応の調査の機会は持ったとの弁解に使えるからです。
二つ目はそれに対して売主が任意に回答する機会を与えることになるからです。また、売主も告知義務があるのに告知しないことは違約金の問題ともなり、好ましいことではないからです。告知書を通して告知を促し、その機会を与え得るからです。
- 媒介業者が偶然事実を知った場合で、売主から守秘を要請された場合の宅建法45条(守秘義務)、47条の関係
媒介者が偶然事実を知った場合でも47条の関係から告知義務があり、告知しないことは罰則を伴う重たい責任を負わされることにつながります。また、告知義務は宅建業者の守秘義務(業法45条、75条)に優先します。なぜなら、守秘義務は、宅建業者・使用人・従業者に対し、無制約に課せられるものではなく、「正当な事由がある場合でなければ、その業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を他に漏らしてはならない。」と規定し、「正当な事由」がある場合には、むしろ守秘義務を解除しています。
「正当な事由」がある場合としては、
- 宅地建物取引業者として取引の相手方に対して、秘密事項について説明義務がある場合(業法35条・47条1号)
- 訴訟法上証言する義務がある場合
- 本人の承諾があった場合
が挙げられています。
|
|
COPYRIGHT(C)2008 宅地開発設計 有限会社アットプレイン ALL RIGHTS RESERVED.
|
|