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※「千葉県宅地建物取引業協会 研修会テキスト」 から抜粋したものです。
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中古物件を売買する場合の注意点 |
中古物件を売買する場合の注意点
- 宅建会社Xは、競売で取得した中古の収益マンションを一括で買主Yに売却した。
- ところが、引渡後2ヶ月を経過したところで、買主Yからポンプの近くから水漏れがあるのでポンプの取替とビルの補修代を出してくれといわれた。
- 売買契約書では、引渡後2ヶ月以内に生じた不具合については売主が責任を負う、と明記されているが、期限は過ぎている。
【解説】
最近、中古物件と瑕疵担保責任に関する深刻な質問が増えている。最も多い質問が、「築後十数年を経過した中古物件の売買で売買後、経年変化を原因として水漏れ等があった場合、『隠れた瑕疵』に当たるとして売主は、瑕疵担保責任を負いますか。」というものだ。
この問題は、結論から言うとなかなか難しい問題で明確な答えが出せないが、後述のように内覧と引渡時の稼動事実の確認を徹底し、特約を工夫することでかろうじて無用なトラブルを防止できるかというものだ。以下に述べる特約の効力については種々の問題もあるが、次善の策として参考にしていただければ幸いである。
民法570条の「瑕疵」については、ご承知のように「物が通常有すべき品質・性能を欠くこと」と定義づけられているので、築後十数年経過していれば経年変化による劣化・腐蝕そのものはむしろ、その中古物件が通常有すべき品質・性能であるので瑕疵にあたらないとの見解もあるが、それにしても、通常有すべき品質・性能という基準はいささか抽象的過ぎ、中古物件の経年変化を瑕疵と考えるのか否かはこの定義によって明確に区分することは到底不可能である。
そこで、この点の対応に関する方策として築後十数年を経過したような中古物件の売買で売買引渡後、経年変化を原因として水漏れ等があった場合に「隠れた瑕疵」としたくないのであれば、できるだけ内部のシミ、開閉の不具合、ひびわれの状況、設備の稼動状況等を現地で確認しながらその点を「付帯設備及び物件状況確認書(告知書)」等で引渡時の状況を確定し、また、現況を重要事項説明書で説明するとともに次のような特約で瑕疵を顕在化することだ。
即ち、「本物件は築20年を経過しており屋根等の躯体、基本的構造部分や水道管、下水道管、ガス管、ポンプ等の諸設備については相当の自然損耗・経年変化が認められるところであって買主はそれを承認し、それを前提として本契約書所定の代金で本物件を購入するものである(それらの状況を種々考慮、協議して当初予定していた売買代金から金350万円を値引きしたものである)。買主は、それぞれの設備等が引渡時に正常に稼動していることを現地で確認したが、引渡後に自然損耗、経年変化による劣化・腐蝕等を原因として仮に雨漏り、水漏れ、ポンプ等の設備の故障等があったとしても、それらは隠れた瑕疵に該当するものではなく買主の責任と費用で補修するものとし、売主に法的請求・費用負担等を求めないものとする。」と明記しておくべきだ。
そうでないと「経年変化」による劣化・腐蝕等は絶対に「隠れた瑕疵」ではないと言い切れない場合があるからだ。場合によっては事前の専門家による診断を勧めることもよいと思われる。
なお、瑕疵担保責任は負わない旨の特約は売主が宅地建物取引業者で買主が宅地建物取引業者以外の者の場合は宅地建物取引業法第40条で無効となる(本件の場合も引渡2ヶ月という特約自体無効ということを明記すべきである)。また、事業者が売主で買主が消費者の場合は消費者契約法第8条第1項第5号で無効となったり、瑕疵担保責任を負わない特約があっても、売主が瑕疵の存在を容易に把握し得る立場にあり、売買契約を締結するにあたり、買主から瑕疵の存在可能性について問い合わせがあった時にその説明義務を怠って瑕疵の存在可能性について調査をしなかったにもかかわらず、買主に対して問題はないとの意見表明をした場合は瑕疵担保責任は負わない旨の特約は適用されないという判例(東京地裁平成15.5.16判時1849.59)もあるので、あえて経年変化や専門家による調査の未了を買主に認識させ、経年変化を「顕れた瑕疵」とする必要があるのだ。
しかし、あくまでトラブルを回避するための次善の方策であり、瑕疵担保責任を常に回避できるかについては残念ながら保証の限りではない。
なお、具体的ケースにもよるが、買主が納得するのであれば、以上の特約と合わせて耐震・アスベスト・土壌汚染等についても次のような確認が効果的なこともあると思われる。
「また、耐震強度、アスベスト使用の有無、土壌汚染についても専門家による調査は未了であるが、買主はそれを承知して本件物件を上限金額で購入するものであり、耐震強度不十分、アスベストの使用、土壌汚染等を理由として法的請求、その他金銭的請求をしないものとする。」
【中古物件売買の場合の手順】
- 引渡時までに買主との内覧の徹底。
- 設備稼働状況を引渡時の「付帯設備及び物件状況確認書(告知書)」で確認・確定。
その際、専門家による調査によらなければ明らかにならない不明事項は、「不明。但し、専門家による調査が未了」と明記しておく。
- 重要事項説明でも以上の点を十分説明する。但し、業者の立場で知った重要事項は説明しなければならない(宅建業法47条)
また、買主から依頼を受けた宅建業者は、売主の言動や告知書だけでは調査不十分という下記の判例もあるので留意されたい。
- 事案に合わせて上記のような特約を検討する。
○東京地方裁判所平成16年4月23日判例時報1866号65頁
「売主と買主の双方から仲介を依頼された仲介業者は、売主の提供する情報のみに頼ることなく、自ら通常の注意を尽くせば仲介物件の外観(建物内部を含む。)から認識することができる範囲で、物件の瑕疵の有無を調査して、その情報を買主に提供すべき契約上の義務を負うと解すべきである。
本件焼損等は、被告会社がこれを認識している場合には、信義則上買主に告知すべき事項であるところ、被告会社は、本件焼損等を被告乙山から知らされていなかったが、注意して見分すれば本件建物の外観から本件焼損の存在を認識することができたということができ、その上で被告乙山に問いただせば、本件火災や消防車出動の事実も知り得たと認められる。したがって、被告会社は、本件焼損等を確認した上で、原告らに情報提供すべきであったのに、これを怠ったというのが相当である。被告会社は、原告らも発見し得なかった本件焼損を被告会社が発見することはできなかったと主張するが、前記のとおり、本件焼損は下からのぞき込めば発見し得るものであり、対価を得て仲介をする業者としては、契約上の義務として内覧しているのではない買主が瑕疵を見逃すことも多いのであるから、自ら発見に努めるべきであって、失当である。また、取次が被告乙山に火災の有無を確認したところ、火災に遭ったとの回答がなかったというが、それで上記義務を免れるとはいえない。
以上によれば、被告会社が本件焼損等を確認した上で、原告らに告げるべきであったのにこれをしなかったのは、仲介契約上の債務不履行に当たる。」
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