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ホーム >> 【個人のお客様への調査内容】 紛争事例
※「千葉県宅地建物取引業協会 研修会テキスト」 から抜粋したものです。
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金8500万円の取引を逃す(説明のあり方) |
金8,500万円の取引を逃した仲介業者の説明
まずい説明を繰り返したため金8,500万円の取引を逃した事案を見聞きしたので参考にされたい。
- 買主はある一流の会社の部長クラスで、定年を間近にして都内の一等地に中古の住宅を探している。
予算は退職金と借入金で8,500万円から9,000万円である。
買主はインターネットで物件を探していたようで、仲介業者が掲載していた杉並区の物件についてある日電話による問い合わせがあった。
その物件は売主業者が相続の事件物を5,800万円で買い取ったもので、そのことは物件についている乙区の抵当権から明らかであった。
- 買主は、早速現地の案内を求めてきたので、次の日曜日に案内することにした。その物件は古い高級住宅街にあり、前面道路は2項道路の私道であった。
但し、登記簿を見ると所有者は一人の個人であった。買主は妻と子供をともなってきたが、かなり興味を持ったようで色々と質問をしてきた。
まず建物の築年数、前所有者のこと、アスベストの使用の有無、耐震性、道路のこと、天窓であるが雨漏りはないのか、まだ改装工事が済んでいないがいつ終わるのか、床に傾きはないのかと言いながらポケットからビー玉を取り出して床に転がしていた。
この時、答えられたのは昭和63年建築の建物であることと私道の所有者の住所と名前だけで、後のことは今後の調査によると答えざるを得なかった。
しかし、買主からはその日の内に「前面道路が他人所有の私道だと掘削ができないと聞いたが大丈夫ですか。所有者はどこにいるのですか。」との電話が入った。誰かに相談していると感じたが、買主が言うとおりのことなので、すぐに調査して報告すると回答し手強い相手と思いながら電話を切ったものである。
大体インターネットで物件を探してくる客の傾向としてとにかく、情報量が豊富で、こちらも対応を機敏にしないと逆に対応が立ち遅れ不信を買うことになるということは従来の体験からも分かったことであったが、久々の高額の取引なので気を引き締めなければと思った。
- その後直ちに、売主業者に問い合わせをしたが、判ったのは雨漏りがあったが、今回改装工事をしたことで雨漏りはないこと、私道の所有者は戦前の地主だった人のようだが、現在は行方不明で所在はわからないこと、但し、水道局やガス会社は使用承諾書なく事実上工事をしてくれること、改装工事は5日後に終わるということだけであった。
アスベスト、耐震性については詳しいことはわからないが、問題ないでしょうというだけだった。
私道のことはある程度わかったのでそれで説明すればよいとして、アスベスト・耐震についてはどのようにしたものかと思案をし始めた。確かに改正宅建業法施行規則ではアスベスト調査自体は仲介業者の責任ではないし、宅建業法第35条ではアスベスト調査記録の有無の調査と昭和56年5月31日の旧耐震基準の建物であれば耐震診断の有無さえ調査すれば足りるが、買主があくまでアスベストや耐震能力にこだわった場合、売主との間で調査について調整しなければならないことになる。しかしどうも売主業者は余り勉強をしているような感じでなく簡単に考えていることが気になった。
- 翌日、買主から「建築確認の際の建築図面はないのか、あれば見せて欲しい。
また、もう一度現場で物件を見たい。」と言ってきたので、売主から建築確認図面と鍵を預かり、それを渡すために現場で待っていたところ、買主は友人の建築士と称する者を連れてきていて、耐震性について独自に調べ始めていた。
現場では私道等の情報で知り得たことを話しながら、アスベストについては詳しいことはわからないが、問題ないと思うと回答したところ、買主は案の定、「何か根拠があって言われているのか、屋根裏や台所周辺の素材は大丈夫ですか。」と聞いてきたので、仲介業者は、「それは宅建業者としては調査義務はない。」と答えたところ、買主はかかさず、「あなたに責任はないかも知れないが、もし後でわかれば売主業者の瑕疵担保責任はあるでしょう。私は後でアスベストが使われていて取り壊しの時に余分な費用をかけたくないので売主に掛け合って調べて欲しい。」とのことであった。
- 仲介業者は直ちに携帯電話で以上のことを伝えたところ、「めんどくさいことを言う客だな。アスベストについては材質を見てあんたの方で調べてくれ。そして客には現在売り止めをしているが、新しい客が来ているので早く決めてくれないと新しい方に売ることになると伝えてくれ。」とのことであった。
新しい客が来ているとも思えなかったが、売主業者も借金して買っているので売り急いでいるんだなと思った。アスベストについては使われていそうなところの材質について製造番号が書いてあるものについて製造元に聞けばアスベストの使用の有無を教えてくれるということであったので、判る範囲で調査したところいずれも使用されているものではないと判った。そこで買主には「すべてわかったわけではないけど調査した限りではアスベストは使用されていない。」と伝えたところ、買主は一応納得したようであった。
- ところが、突然売主から「新しい買主が来ている。明日契約をしなければそっちに売ることになると買主に伝えてほしい。」との電話が入った。「それは無茶でしょう。」と応じたが、「とにかく、時間がない。そのように伝えて欲しい。」と一歩も譲らない様子であった。
そこで買主にはその旨を伝えたが、買主は「大体問題はないと思うので買いたいと思うが、重要事項説明書や契約書については、こちらでもある程度検討したいので明日夜重要事項説明をしてくれれば明後日の夜、契約ということでどうですか。」ということだった。売主業者にその旨を伝えたところ売主業者も買ってくれると安心したようで、「それではそうしましょう。」ということになった。
翌日午後8時から2時間にわたって重要事項説明をし、契約書の写しも買主に交付して、翌日まで検討する機会をもってもらうこととした。
- ところが、翌日、買主から「友人の専門家に契約書と重要事項説明書を見てもらったが、『売主業者が引渡から2年間だけ補修のみの瑕疵担保責任を負う』というのは宅建業法40条で無効でないですか。」との電話が入った。「2年間瑕疵担保責任を負うのだから有効と思うけれど、調べて報告します。」と言って電話を切ったが正直自信がなかったのですぐに都庁に問い合わせてみたところ、やはり「引渡から2年間解除、損害賠償を認めなければならないという宅建業法40条の要請により買主に不利な内容なので無効である。」というのが都庁の回答であった。
売主にそれを伝えたところ、「自分も金に余裕が無いので解除や損害賠償は困る。敢えて修繕のみを瑕疵担保責任の内容としたが、無効になるとどうなるのかな。」と質問するので、「確か研修で聞いたところだと、特約はすべて無効になって民法の原則に戻る。
つまり、売主は買主が、隠れたる瑕疵を知った後一年間は瑕疵担保責任を負うことになると思いますよ。」と答えた。売主は、少し考えた挙句、「それではかえって損だから買主の言うとおりでいいけど、うるさそうな奴だな。」ということであった。
- しかし、以心伝心というか、「特約は買主の言うとおりでよい。」と買主に伝えたところ、買主は、「いろいろ考えたけれど、売主業者もあなたも信用できなくなった。後で何か不具合が見つかっても、今までの対応を見ていると売主業者は責任をとってくれるとは思えない。私も一生賭けて貯めたお金で買う一生に一度の買物なのでいい加減な相手と契約したくない。今回のことはなかったことにして欲しい。」と契約締結には応じないときっぱり言われ、久しぶりの8,500万円の取引は水に流れていった。
そして難しい時代になったものだと考えながら、なんとも言えないむなしさだけが残ったのである。
本事案に学ぶ
- 実際の取引では重要な事項説明は買主の質問等をとおして順次行われ、その都度誠実に適切に行われないと不信感を持たれてしまう。
- 宅建業法では重要事項説明は契約締結までにすれば違法ではないが、多くの買主の本当の要求は契約の2〜3日前にして欲しいというものである。これについては「不動産取引における消費者への情報提供のあり方に関する調査検討委員会」の報告書のポイントを参照のこと。
- 契約書の内容は法にのっとるものでないとトラブルの原因となるばかりか、相手の不信感を招くことになる。今後、重要事項説明が2〜3日前に書面化されることになると今回のようなことがもっと多くなることが予想される。
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